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「あっつい」 砂漠で灼熱の太陽に焼かれているような暑さに、私は身体を起こした。 汗でシャツが張り付き気持ち悪い。 脱水症状が出ているのか、気分も悪く、くらくらする。 辺りは薄暗く、暑さを助長するオレンジ色の光がぼんやりと照らし出すのは、私が縮こまって収まる、狭い空間だった。 「痛っ」 動いた拍子に額をしたたかにぶつけ、私に覆いかぶさっている何かが持ち上がった。 そこから涼しい風と光が流れ込んでくる。 私は、その方向に向かって、にじり出る。 「ぷはぁ、助かったぁ」 新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込み、覆いかぶさる何かから這い出す。 最初に目に入ったのは、ピンと張られた染み一つない障子。 障子の向こうは、薄明るく、外の光が感じられた。 どこ、ここ・・・。 友人と居酒屋で飲んでいて、トイレに立ったところまでは覚えている。 私は、見覚えのない場所にぐるりと視線をめぐらした。 床の間があり、大ぶりの椿が活けられている。 さらに首をぐるりと回せば、炬燵からこちらをぼーと見る猫背の男がいた。 「うわっ」 私は、慌てて、ずり上がったスカートを直す。 臙脂の着物に、朽葉色のどてらを羽織った男は、眠そうにあくびを一つした。 「炬燵は、もぐってはいけません」 炬燵の天板に首を預け、面倒臭そうに言った。 「あの、ここはど・・・」 どこですか、と聞こうとしたその時、障子がすぱんっと開かれ、次々に人が入ってくる。 人・・・じゃない。 私は、頭を振り、目をこするが、入ってきたのはどう見ても、カワウソだった。 山高帽に三つ揃えのスーツを着たカワウソ3匹?3人?がどてらの男に挨拶をしながら炬燵に入り込む。
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