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廊下は、冷気が重く滞り、足が芯から冷えていく。 早くも炬燵が恋しくなる。 私は、一向に突き当りの見えない廊下に心細くなりながらも、歩を進める。 行けども行けども、廊下は、先へと続いて行く。 もしかして、部屋を出て左に行くんだっただろうかと思い始めた時、さっと障子が開いた。 出てきたのは座頭で、その向こうに嘲るような笑いを浮かべる葵と、不安げなその他の面々が見えた。 「あれ、私、どうして部屋の前に。ずいぶん歩いたのに」 「私も一緒に行きましょう」 座頭はどてらの中に身体を縮こめるようにして出てきた。 「日が変わり、冬至に入った」 だから何なのか説明はないまま、座頭は先に立って歩いていく。 白い足袋が、しゅっしゅっと音を立てる。 その足元を見ていると、黒いもやもやしたものが、逃げるように散らされている。 気づけば、それはだんだん立ちのぼり、私たちの周りを取り囲んでいる。 けれど、座頭の周りには、決して入り込まない。 「この黒いの、何ですか?」 「陰の気です。私から離れると、取り込まれますよ。冬至で普段より力を得ているから、気を付けて」 誘うようにゆらゆらと蠢くもやに、私は鳥肌が立った。 何か分からないけど、嫌悪感と恐怖が湧き上がる。 心持、座頭に近づいて、猫背の背を追って後を歩く。 「ああ、早く炬燵に戻りたい。あなたもでしょう?」 ぼそりと呟きながら、座頭が振りかえる。 ぼさぼさの髪がふわっと揺れた。 炬燵、と聞いた途端、心がぽっと火が灯ったように温かくなり、かじかんでいた足にも力が湧いた。 「そうそう、その意気です。炬燵に入って、おいしいミカンを食べましょう」 さほど歩いた気はしないのに、行く手で廊下が、左右に分かれた。 座頭は、左へ曲がる。 「さっきは、どんなに歩いても曲がり角なんてなかったのに」 訝しむ私に、座頭は振り返りながら答えてくれた。 「あの部屋を離れたくないと思いながら歩いていたからでしょう。この廊下は、心を読みますからね」 ということは、私はあのままどんなに歩いても、どこにも辿りつけなかったということだ。 あの葵という女は、そうなることが分かっていたのだろう。 嘲るような笑いを思い出して、むっとした。
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