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「さあ、ミカンの木です。あなたが木に認められれば、ミカンを取らせてくれます」
そこで言葉を切り、座頭はじっと私を見た。
「認められなかったら・・・?」
こわごわ私は先を促す。
座頭は、私からミカンの木へと視線を移し、じっと木を見る。
ま、大丈夫でしょう、と呟いて、にっこりと笑った。
「何か、今の間が怖いんですけど」
「知らない方がいいことも、世の中にはいっぱいあります。いってらっしゃい」
私は背中を押されて、開いたガラス戸から、庭へ降りた。
ミカンの木とは思えないような大きな木だった。
ここは、雪も降らず、温かい。
私は、こわごわ手の届くミカンをもいだ。
何も起こらない。
座頭を振り返れば、うんうんと首を振るので、籠がいっぱいになるまで、ミカンをもいだ。
重くなった籠を抱えて廊下へ戻ると、座頭は良かったですねぇと私の頭から足までざっと見た。
「どこも欠けてないですね」
「欠ける?どういうことですか?」
「木に認められれば、ミカンが食べられる。認められなかったら、あなたが木に食べられる」
私は、ばっと木を振り返った。
そこに佇むミカンの木が、急に薄気味悪く思えた。
「大丈夫じゃないじゃないですか」
「大丈夫だったでしょ。私の勘は、割と当たるんです。私が大丈夫と思った人は、大体食べられたりしません」
大体、という言葉が、私をぞっとさせる。
「さ、早く炬燵へ行きますよ」
座頭は、背を丸めて、さっさと歩き出す
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