3眼目 無闇な依頼にご用心

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3眼目 無闇な依頼にご用心

―――この社会には、虐げられる人々がいる。 その人々の間で、語られる噂がある。 普通の人なら、気にも留めない小さな噂。 だが、どん底に落とされた人々にとって、それは最後の希望だった。 …ただ、どんなものにでもイレギュラーというものは存在する。 「アイツさえ…アイツさえいなきゃ、今ごろ私が彼と…きぃいいい!」 木村 育美は、雨の路地裏で叫ぶ。 その足元には、にじんだ『oculus』の文字があった。 ラテン語で『目』を示すその文字を、彼女はにらみつける。 その背後に、音もなくコウサイが姿を現した。 「…!」 育美はすぐさま気配に気づき、振り返る。 コウサイの姿を見ると、彼が語り出す前に、彼女は自分の言葉を叩きつけた。 「来てくれたのね! ウワサは聞いてる…恨みを晴らさせてくれるんでしょ!?」 「おやおや、ずいぶん有名になってしまったものですね」 コウサイは軽く苦笑してみせる。 だが育美は時間が惜しいのか、彼にこう詰め寄った。 「早くして! 早くしないと、あの女が私の彼を…ううう早くして!」 「かしこまりました。では、まいりましょう」 「早く、早く…!」 コウサイと育美は、建物の壁に向かって歩いていく。     
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