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壁の中に入りはしたが、その建物の中に入った、というわけではない。
どこにもつながっていないその場所は、どこにでもつながっている場所だった。
「ここは…」
「お座りください、契約の話をさせていただきましょう」
コウサイが示す先には、無骨な椅子がある。
首、手首、足首を拘束する輪があり、座れば逃げられなくなるだろうというのは、誰の目にも明らかだった。
「……」
勇人はそれを見て、恐怖に顔をしかめる。
だがすぐに首を横に振り、椅子へと近づいていった。
覚悟を決めた彼が椅子に座ると、その前にコウサイが立つ。
「よくぞここに座る恐怖をはねのけましたね…あなたは素晴らしい勇気をお持ちだ」
「…勇気なんて、オレには…」
勇人はそう言って、コウサイから目をそらす。
目をそらしたはずの先には、なぜかコウサイの顔があった。
「えっ!?」
勇人はぎょっとする。
自分が見ないようにしたはずのものが、目の前にあることで軽いパニックが起こる。
そこへ、コウサイが微笑みながらこう言った。
「あなたの苦しみは、もうすぐ消えることになるでしょう…」
「…うっ…」
勇人の心臓が、ひときわ強く鼓動を打つ。
直後、彼の中にここへ来るきっかけとなった事件が思い出された。
「うぅ…うおおあああああああああ……!」
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