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もやは眼窩から直に美沙の脳へ到達し、なにかを見せ、聞かせた。
”お前のせいでおれは会社をクビになった…結婚の約束をしてた子も逃げていった! お前のせいで…お前のせいでぇぇええええッ!”
それは勇人の恨みだった。
美沙の体は痙攣し、残された左目が持ち主の制御を離れて勝手に上を向いていく。
そして彼女は、部屋の天井にいつの間にか、巨大な目が現れていることに気づかされた。
それは血走り、じっと美沙を見つめている。
恐怖に口をぱくぱくと動かしていると、やがてその体が大きく跳ねた。
「あぎっ…!」
左目が完全に白目をむき、美沙はその場に倒れ込む。
美沙の体が床に触れる前に瞳は姿を消し、巨大な目玉もなくなっていた。
「…わりーわりー、なんかトイレ掃除中でよ。他んとこ探してたら遅くなっ……おおっ!?」
仲間の男が帰ってきた時、目にしたのはモニターの前で倒れた美沙の姿だった。
彼女が扇にしていた何十枚もの1万円札は、どこかへと消えてしまっていた。
こうして、谷村 美沙は死んだ。
消えた金は冤罪の罠に落ちた男たちに、いつの間にか返されていた。
「…ありがとう…」
人気のない路地裏で、勇人は小さくつぶやいた。
足元に目をやる。
そこにはもう、あの時に自らの血で書いた「oculus」の文字はない。
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