2眼目 痴れ者が濡らす衣

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もやは眼窩から直に美沙の脳へ到達し、なにかを見せ、聞かせた。 ”お前のせいでおれは会社をクビになった…結婚の約束をしてた子も逃げていった! お前のせいで…お前のせいでぇぇええええッ!” それは勇人の恨みだった。 美沙の体は痙攣し、残された左目が持ち主の制御を離れて勝手に上を向いていく。 そして彼女は、部屋の天井にいつの間にか、巨大な目が現れていることに気づかされた。 それは血走り、じっと美沙を見つめている。 恐怖に口をぱくぱくと動かしていると、やがてその体が大きく跳ねた。 「あぎっ…!」 左目が完全に白目をむき、美沙はその場に倒れ込む。 美沙の体が床に触れる前に瞳は姿を消し、巨大な目玉もなくなっていた。 「…わりーわりー、なんかトイレ掃除中でよ。他んとこ探してたら遅くなっ……おおっ!?」 仲間の男が帰ってきた時、目にしたのはモニターの前で倒れた美沙の姿だった。 彼女が扇にしていた何十枚もの1万円札は、どこかへと消えてしまっていた。 こうして、谷村 美沙は死んだ。 消えた金は冤罪の罠に落ちた男たちに、いつの間にか返されていた。 「…ありがとう…」 人気のない路地裏で、勇人は小さくつぶやいた。 足元に目をやる。 そこにはもう、あの時に自らの血で書いた「oculus」の文字はない。     
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