3眼目 無闇な依頼にご用心

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ふたりが壁にぶつかる前に、空間が歪んで黒い穴が現れる。 そこを通った彼女が見たものは、暗い部屋とその中央にある無骨な椅子だった。 椅子を見た彼女は、顔を引きつらせて後ろへ一歩さがる。 コウサイは、そんな彼女にとぼけた口調で尋ねた。 「おや、お帰りですか?」 「ひ、ひとつ訊いてもいいかしら…あの椅子、まさか私が座るの?」 「さようでございます。あれはあなたのための椅子…あなた以外の誰が座るというのでしょう?」 「ちょっと待ちなさいよ…」 育美はそう言いながら、椅子に近づく。 だが近づきはするものの座ることはなく、椅子の脚と背もたれに取り付けられた拘束具を指差した。 「なんなのよこの輪っか! まるで私が逃げないようにするための…」 「さようでございます」 「…は!?」 椅子を見ていた育美が、驚いてコウサイに目をやった。 だが、声がした方向に彼はいない。 「え…」 「この椅子は、あなたを逃がさないための椅子でございます」 「ひィ!?」 育美は恐怖に体を震わせる。 コウサイは、いつの間にか彼女の背後に立っていた。 彼が移動した気配はなく、移動する時間もなかったはずなのに、間違いなく背後に立っている。 そのことが、育美にさらなる恐怖を植えつけた。     
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