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ふたりが壁にぶつかる前に、空間が歪んで黒い穴が現れる。
そこを通った彼女が見たものは、暗い部屋とその中央にある無骨な椅子だった。
椅子を見た彼女は、顔を引きつらせて後ろへ一歩さがる。
コウサイは、そんな彼女にとぼけた口調で尋ねた。
「おや、お帰りですか?」
「ひ、ひとつ訊いてもいいかしら…あの椅子、まさか私が座るの?」
「さようでございます。あれはあなたのための椅子…あなた以外の誰が座るというのでしょう?」
「ちょっと待ちなさいよ…」
育美はそう言いながら、椅子に近づく。
だが近づきはするものの座ることはなく、椅子の脚と背もたれに取り付けられた拘束具を指差した。
「なんなのよこの輪っか! まるで私が逃げないようにするための…」
「さようでございます」
「…は!?」
椅子を見ていた育美が、驚いてコウサイに目をやった。
だが、声がした方向に彼はいない。
「え…」
「この椅子は、あなたを逃がさないための椅子でございます」
「ひィ!?」
育美は恐怖に体を震わせる。
コウサイは、いつの間にか彼女の背後に立っていた。
彼が移動した気配はなく、移動する時間もなかったはずなのに、間違いなく背後に立っている。
そのことが、育美にさらなる恐怖を植えつけた。
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