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「あなたの目は、あなたの人生、そしてあなたの世界で光を浴びた特別なもの…報酬としてこれ以上のものはございません」
「ちょ、ちょっと待って! お金ならちょっとはあるの! それでなんとかならないの!?」
「この場において、お金は必要ありません。先ほども言いましたが、あなたの左目以上の報酬はないのです」
コウサイは穏やかに言いながら、メスの先端をさらに近づける。
育美の目に、かすかな風が触れた。
それはメスの刃先で、ほのかに切り裂かれた風だった。
ここで育美の中にある恐怖が、限界を突破する。
「あぶっ…」
彼女は泡を吹いて気絶してしまう。
それを見たコウサイは、そっとメスを離した。
「うふふ」
笑い声が響いてすぐ、育美が座らされた椅子の後ろに、瞳が現れる。
彼女は背もたれの上部に腕を重ねて乗せ、その上にあごを置いて、コウサイと軽く笑いあった。
一方、安村刑事は中年の男性と話をしていた。
それは今しがた終わり、不思議そうな顔で男性が彼から離れていく。
相手の後ろ姿を目で追うこともできず、呆然とした顔で安村刑事はこうつぶやいた。
「バカな…! そもそも小島 勇人なんて知らない、だと…!?」
勇人に接触した彼は、谷村 美沙が殺された事件について尋ねた。
だが逃げられてしまい、今回は住所を調べて直接家に乗り込んだ。
だが彼はそこにはいなかった。
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