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毛足が長く面積も広いそれは、遠目に立つと偉人の肖像画として鑑賞できるようになっている。
他にも、部屋には光り輝くばかりの美術品が数多く並べられていた。
そのどれもに、男の血が付着していく。
そして持ち主は、もはや美術品のことなど考えていられなかった。
彼は書斎机の上にある電話に手を伸ばそうとしたが、やがて体を大きく震わせて動かなくなってしまった。
「痛ましいことだが、なあ…」
「最近は、特に新人つぶしがひどかったんです。権藤先生を恨む者はいくらでもいたでしょうね…」
瞳に右目と命を奪われた美術家、権藤 幸三郎の関係者たちが口々に言う。
彼らの言葉を手帳に書き留めているのは、佐伯刑事だった。
聞き込みを終えたところで、彼よりも年若い刑事が近づいてくる。
「先輩、他の人たちにも話聞けました」
「……」
後輩に話しかけられているのだが、佐伯刑事は何事かを考えていてその言葉を聞いていない。
数秒たつと、そばに後輩が立っているのに気づいて、そちらを向いた。
「ああ、杉沢くんごめん、なんだっけ」
「えっと、他の人たちにも話を聞けたって報告に来たんですけど…先輩、どうかしたんですか?」
「あ、話聞けたんだね? じゃあ僕が聞いた話と合わせてまとめていこう」
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