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コウサイと名乗った男は、裕子に深く頭を下げた。
彼女はすぐさまひざ立ちで彼にすがりつき、その靴に頬ずりをする。
「待ってた…ああ…! あの男を、あの男をどうか殺してください、お願いします…!」
「まずは中へ入りましょう。風邪をひいてはいけません…さあ、立っていただけますか?」
「はい…!」
裕子はコウサイの言葉に従って立ち上がる。
やがてふたりは、路地裏の壁に向かって歩き始めた。
壁が目の前に来ても、彼らは歩くことをやめない。
そのまま行けばただ壁にぶつかるだけであるはずが、なぜかふたりはそのまま壁の中へと吸い込まれていった。
雨に濡れた地面には、にじんで消えかけた血文字がある。
それは『oculus』…ラテン語で『目』と書かれていた。
安村刑事と佐伯刑事は、署を出てから別々に聞き込みを行っていた。
その結果、高村 進次郎は店の中だけでなく外でも、さまざまな女から金を巻き上げていたらしいことがわかった。
「…うーん…」
動機が存在する女たちの数が多すぎて、容疑者を絞り込む段階に進むことができない。
どうしたものかと考えていると、佐伯刑事から電話がかかってきた。
「安村だ、どうした?」
”おつかれさまです。崎島商事で、高村の客…というわけではないんですが、事件の少し前から職場に来なくなった女の子について、話を聞けました。設楽 裕子というんですが”
「客じゃない、ってことは恋人ってことか?」
”どうもそういう感じではないんですよね…彼女と親しかった友人によると、以前高村らしき男と歩いているのを見て、それについて訊いてみたら『オフ会で会った人』と言われたそうで”
「ほーぅ…? で、その女が今も職場に来てないってわけだな?」
”そのようです。友人といっても、つっこんだ話をするほどの仲ではないらしくて、それ以上は…”
「よし、俺もそっちへ行く」
安村刑事はそう言うとすぐに電話を切った。
彼は崎島商事に向かい、設楽 裕子の友人だという女性に話を聞く機会を、半ば無理やりに作った。
「確認したいんだが、君の友人というのは…この子か?」
安村刑事は、ポケットから紙を取り出し、広げて見せた。
そこには、彼が現場近くで取り逃がした女の似顔絵が描かれている。
これは署を出る前に、彼が似顔絵捜査員に依頼して描いてもらったものだった。
「え…」
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