1眼目 依頼は左目、標的は右目

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高村に背を向けて、女はバスルームから出ていってしまった。 近くで彼女の裸体を見た彼は、逃すわけにはいかないと鼻息を荒くして彼女を追う。 高村がバスルームのドアを開けると、女は彼の方を向いて立っていた。 いつの間に着たのか、黒革の装束を身にまとっている。 そのことにも驚いたが、さらに彼をぎょっとさせたのは、女の左手に乗せられた物体だった。 「な…それ、目?」 「今回のターゲット、間違いないかしら?」 女は、自身の左手に乗せたもの…目玉に向かって問う。 その問いに答えたのは、どこからか響いてきた裕子の声だった。 ”間違いない…コイツよ! コイツを殺して!” 目玉は設楽 裕子の左目であり、コウサイにえぐり取られたはずのものだった。 体から離れたはずの目で、彼女は高村の姿を『視認』することができた。 しかもこの場にいないはずなのに、女に対して返答までした。 突然に起こったこの事態を、高村は理解することができない。 ただ、裕子の声を忘れてはおらず、その言葉もしっかりと耳に入っている。 彼は顔を歪め、どこかにいるらしい彼女を探しながらこう叫んだ。 「なんだ裕子、お前今なんつった? 俺を殺せだと? 俺は信じてたのに、浮気して子どもまで作ったのはお前だろ! 今まで遊んでやった恩を忘れて、なに言ってやがる!」 「あーらあら…アナタの相手はワタシよ。うふふっ」 女が笑うと、左手に乗っていた目玉がふわりと消える。 彼女はそっと高村に近づき、まるで小さな子どもをあやすようにささやいた。 「アナタの言い分はどうでもいいの。ワタシは彼女に依頼された。だからそれをやり遂げる。それだけのこと」 「なに…!?」 裕子を探していた高村の顔が、女の方へと向く。 それを狙いすまして、女は右手で彼の顔をつかんだ。 高村の目を見つめ、自らの名を名乗る。 「ワタシの名前は『瞳』。アナタの右目と命を、もらいに来たわ」 「う、うぅっ!?」 高村は逃げようとするが、女の細い手をどけることができない。 彼女は微笑みながら左手を高く掲げた。 左手人差し指の爪が、長く伸びる。 黒いマニキュアが銀色に変化し、爪の上に目玉の模様が真紅を帯びて浮かび上がった。 「アナタの世界を見たその右目、いただくわね」 「や、やめ…!?」
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