1眼目 依頼は左目、標的は右目

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高村の顔が真っ青になった直後、瞳は素早く左手を振り下ろした。 彼女の左手人差し指が、彼のこめかみに突き刺さる。 「がッ!?」 「うふふ」 妖艶に微笑んだ瞳は、軽く力を入れる。 白く細い指は高村の頭骨を刺し貫き、側頭部の骨を切り裂いて、いともたやすく彼の右目をえぐり出した。 鮮血が飛び散り、瞳の顔に付着する。 唇についた血を彼女が舐め取った時、高村は奪われた右目の代わりに、何か別のものが流れ込んでくるのを感じた。 「う…うぅ…!」 それは裕子との記憶、そして彼女の恨みだった。 恨みが流れ込むほどに高村の体は強く震え、残された左目が少しずつ上を向く。 その動きに彼の意志は関係ない。 流れ込んでくるものに体が耐えきれず、眼球が勝手に動いてしまうのだ。 左目がほぼ真上を向いた時、高村は脱衣所の天井が変化していることに気づく。 見慣れた蛍光灯はそこになく、あるのは巨大な黒い円形のなにか。 「う…?」 黒い円の周囲には、白地に赤のラインがジグザグに入った模様がある。 すぐにはわからなかった彼だが、やがて気づいた。 天井にあるのは、巨大な目だった。 2メートルほどの直径を持つ目が、上から高村を見下ろしていたのだ。 彼は、血走ったその目が誰のものなのか、直感で理解する。 「うわああああああああああああああああっ!?」 絶叫した直後、彼の左目が完全に白目をむいた。 同時に全身が大きく痙攣する。 「あぎっ…!」 彼の心臓は、止まった。 立つ力を失った体は重力に逆らえなくなり、脱衣所に崩れ落ちる。 その頃にはもう、瞳の姿はどこにもなかった。 巨大な目もやがて消え、高村の体以外はすべてがもとに戻っていた。 こうして、高村 進次郎は死んだ。 遺体はいつの間にかマンションの外に寝かされており、通行人に発見されることとなる。 もちろん、高村本人の部屋にも鑑識が入り、すみずみまで調べられた。 しかし、誰かが侵入した証拠も、彼が外に出たという形跡も発見できなかった。 やがて、高村 進次郎殺害事件の捜査は、継続されることはかろうじて決まったものの、その規模は大幅に縮小されることになった。 安村、佐伯のコンビは担当から外され、別の事件を処理するようにとの命令が下される。 それでも安村刑事は、他の仕事の合間を縫って単独で捜査を続けていたのだが…
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