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1眼目 依頼は左目、標的は右目
「被害者の傷は…これどうなってんだ」
安村刑事は遺体のそばにしゃがみ、ぼやくように言う。
隣にいた後輩の佐伯刑事が、遺体に背を向けつつ手帳に書いてある文字を読んだ。
「えーっと、右のこめかみあたりからごっそりいかれてる感じ…らしいです」
「…お前、どっち見て報告してんだ。こっち見ろ」
「無理です吐きます」
「しょーがねぇ野郎だ…まあいい」
呆れながら安村刑事は立ち上がる。
その後で何気なく後ろを見た。
ブルーシートと、規制線を示すバリケードテープの向こうに、野次馬たちが集まっている。
その中にひとりだけ、フードを目深にかぶった人物がいるのを見つけた。
フード下部からのぞく口元が、わずかに歪む。
それに気づいた安村刑事は、佐伯刑事に短くこう言った。
「おい、ここ頼むぞ」
「えっ?」
佐伯刑事が尋ねた時には、もう先輩刑事はそこにいない。
一方、安村刑事が自分を狙っていると気づいたフードの人物は、野次馬の中から逃げ出した。
「これはビンゴかな…?」
安村刑事はニヤリと笑い、速度を上げる。
人気がなくなったあたりでちょうど追いつき、服をつかんで無理やりにこちらを向かせた。
「ひっ!?」
「なーんで逃げたのかなー? っと」
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