1.表の終わり

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 都市部の外周にある工業団地の最寄り駅から見える。 生活に不便さを感じない程度には各種の店が並ぶ通りに建つ雑居ビル。 その2階のテナント、派遣会社の事務所で営業として無難なスーツを着た女性と短髪でラフな格好の男性が仕事件で話をている。 「山崎さん、今回の件はちゃんと謝りに行きましょう」 「何で? 俺はやれって言われた通りにやってましたけど?」 経緯は簡単だ。 製造の現場に箱詰めの単純作業で派遣されていた俺の部署で機械の操作を担当していた派遣先の社員がフラッと休憩に出た時に運悪く、製品が詰まり誤作動した。 それ自体は珍しいことじゃないから、俺は指定された通り呼び出しのボタンを押して待機してたんだが、なかなか社員が現れず機械の内部で原料の焼き着きや型の変形が生じたらしい。 当然、修理と生産停止の損失があり、報告書が出されたんだが、不用意な行動をした社員がマイナス査定を回避するため、責任を俺を含む周囲に着けたのが今の状況だ。 「そうは言ってもね、あの機械は修理にも相当のお金がかかるの、ここで頭を下げないと修理代を請求されるかも知れないから我慢してくれないかな?」 「そんなんサボってた社員様が悪いんだろ?」 「でもね、会社の中には立場というものがあって」 「諏訪さん個人はどう思ってんすか?」 「山崎さんの話を信用していないわけじゃないけど、先方からは担当者の人為的ミスと聞いているから、やっぱり謝った方がいいと思ってるわ」 請負契約でもないのに責任を被るのは派遣会社としても本来は避けたいはずだが、担当している枠を失う方が怖いらしい。 「結局は社員様はどこもテメーの査定が優先かよ」 板挟みでイラついているのが分かる。 「正直それもあるわ、場合によっては数百万の請求書がこっちに回ってくるのよ、それが頭を下げて済むなら楽なものでしょう?」 「元を正さないで謝った所で、これからもいいように使われるだけだと思いますけど」 「今は意地や正論が必要な場面じゃないの」 事務所の電話が鳴る。
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