1.表の終わり

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どこも午後の業務が始まる時間か。 「みんな営業先か、ちょっと待ってて」 平日昼間の派遣事務所なんて、あんまり人がいないもの、俺の担当諏訪が電話を取りに向かうとほぼ同時に携帯へメッセージの着信がある。 「こんな時に何?」 俺は話の途中だがメッセージの内容を確認する。 「今日の21時までにプランの確認をするように。まったくあの人は……」 プランというやつは見られるとマズいので一旦ここでは携帯を収める。 電話を終えた諏訪がこっちに戻って来る。 どこか腑に落ちない様子で。 「山崎さん、さっきの件だけど……」 「それもういいですよ、俺辞めますから」 「責任ならいいのよ、今の電話、先方のNNKさんからだったんだけど、今回の件はもういいから再開したらまた来るように、との連絡だったから」 「そもそも責任は俺にありません、ただ別の仕事が入ったんで」 「それは困るわ、新しい人を捜すにしても時間が」 「あんな仕事っつたら悪いけど、手が早くて数に弱くなければ誰だってできますから待機中の人でも回して下さい」 「ちょっと待って」 今度は諏訪の携帯が鳴る。 「誰よ、こんな時に……、はい、関東西営業所の諏訪ですけど」 直電だが諏訪は相手を知らないようだ。 「山崎さんの身柄は私どもで買い取りましたので彼の自由にさせて下さい」 「お仕事の件ですか? まだ私の方では確認しておりませんが」 さらに事務所の電話が鳴る。 「お電話のようですからこれで失礼します」 「あの……」 諏訪は一方的に電話を切られる。 「俺はもういいですよね」 「まだ確認するまでは」 「確認なんて必要ないです、それより電話」 「電話が終わるまで待ってなさいよ」 諏訪は慌てて電話の方へ向かう。 「もう決定事項なのに何慌ててんの、これから大変なのはこっちなんだから……」 俺は用のなくなった事務所をさっさと出る。 事務所電話の着信通知には本社が表示されている。 「本社から? お待たせしました、関東西営業所、諏訪です、はい、はい、分りました、それでは失礼します」 諏訪は電話で至急確認の指示があったメールの添付書類を開く。 「何これ? こんな仕事……、一ヶ月の契約で五百万、それも本人への給与は別途支給するって、山崎さんは何者なの?」
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