しとしと

8/12
前へ
/121ページ
次へ
 ぽちょんぽちょんと、水の滴る音がして我に返った。  何か飲みなさい、流してしまいなさいと誰かに言われたような気がした。  そうだ何か飲もう。わたしはあまりにも、澱んでいる。悪いものがぐるぐると逃れる場所がないまま、わたしの中で渦巻いているのだ。  ごうっと音をたてて押し寄せてきて、またざざんと豪快に聞いてゆく綺麗な水が頭に浮かんだ。  白くて熱い砂の上を、舐めるように打ち寄せてくる、透明度の高いあたたかな、あの水。  にかあっと笑っているような、直線的な太陽の輝き。  あらゆるものが活き活きと鮮やかで、虫や魚や鳥や植物の命の波動が、吐いては吸う空気の中で蠢いているような気がした。  うねるような、命の気配。
/121ページ

最初のコメントを投稿しよう!

84人が本棚に入れています
本棚に追加