ごくごく

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 墨汁を溶いて薄めたような夕闇の中で、片手でカーテンをしめたり電気をつけたりしつつ、もう片方の手で携帯を見た――恋人からではなかった。  いとこで、スピリチュアルヒーリングとかいう、変わった仕事をしている万由子が電話をかけてきている。それも、平日の真昼間にだ。  出られるわけがない。  「かけなおしてよね」と伝言が残されていたので、お湯を沸かしながら電話をかけた。  自分からかけなおせと言ったくせに、万由子はなかなか出なかった。  耳にがんがん響く、変な天使の音楽みたいなやつがえんえんと流れて繰り返し聞かされて、そろそろ切ってやろうかと思った時に、やっと万由子は電話を取った。
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