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ぽちょんと、しまりの悪い蛇口から水が垂れた。まるで何かを語るかのように。
確かに何かを語っているような気がした。蛇口から垂れる水の声に、耳を澄ませてみたい気持ちになった。
高熱のせいで、感覚もなにもかも、やっぱり変だ。
ふと我に返ると、台所から続いている居間のカーテンが、オレンジに明るく輝いている。
朝日が透けて部屋に入りたがっているのだった。
飲みかけのコップを持ったまま、ふらふらよろよろとベランダのガラス戸に近づくと、さっとカーテンを開いた。
黄金の光が強烈な勢いで部屋に乱入してきて、一気に居間は、朝の世界となる。
寒い日になりそうだ。
窓ガラスから、切れるような空気が伝わってくる。ベランダの手すりには霜が降りていた。
夜半、雨が降ったらしく、物干しざおには水玉が下がっている。
朝日が水玉を通過して、虹色の輝きを細かくいくつも生み出していた。
(するべきことをしよう)
(そうして、一刻も早く休もう)
もうじき7時になる。
お湯を沸かさねばならない。
紙のマスクをして、ごってりとあったかくして、病院に行く準備を。
そして、職場に電話をして、今の状態を伝えなくては。
やっと、頭が動き出してくれた。
するべきことが見えて来たら、不安と面倒くささで全てが嫌になっていた重たい心が、少し楽になった。
冷たい窓ごしの光を浴びて深呼吸したら、気管が痛くて、ついでに頭痛も始まった。酷い。酷い風邪だ。
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