私と先生と黒ヤギ郵便と

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 それから私も筆を取った。 『岩泉先生。心配くださったようで、わざわざ手紙を送ってくださり、感謝します。まだまだ浅学の研究者であることを実感し、これからも邁進していく決意を新たにしています。  ところで、私、先生が紅葉屋のこしあんまんじゅうが大好物であることを存じております。甘いもの、本当はお好きですよね。もう、色々と周りにもばればれなのでカミングアウトされた方が賢明ですよ。  こちらの田舎にも雪が降っています。全国的な寒波の影響ですね、きっと。頓首再拝。狐村愛子』  もう一言二言付け足そうかとも思うが、相手が恩師であるし、これぐらい短くてもいいだろう。  土間に待たせていた黒ヤギの赤カバンに四つ折り便箋を入れると、黒ヤギ郵便は出発する。  それからまた、窓辺の雪を眺めた。外はすっかり冷え込んでいる。こういう時は家の中にいるのに限るなあ。そう思っていたら、また勝手口のドアを叩く音がする。  開けると恩師が鼻の頭を赤くして立っていた。 「ええか、君」  岩泉先生は真面目な面持ちで、 「わし、甘いもんは好きじゃないでな」  その物言いが面白くて、笑ってしまった。私と先生は、元々家が隣同士で長年の知り合いなのだ。 「そうですね、ここは『都会』ですから」  私が眺めていた窓の外には、雪化粧をした杉の山があった。
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