第1章

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 放心状態になっている私に、成田さんは攻撃の手を休めずに次々と新事実を打ち明けていきました。 「もう気づいていると思うけど、君は整形手術を受けたんだよ。俺は君と出会った瞬間に見抜いたのさ、ダイヤの原石であることをね。少しイジったら化けると踏んでいたのさ。当時の俺は勤めていた芸能事務所を退職したばかりで、わずかばかりの貯金しかなかったんだ。そして道を歩いている時に、君と運命の出会いをしたんだ。俺はすぐに決断したよ。なけなしの貯金を君に投資しようってね。そして芸能事務所を立ち上げたんだ・・・・・・だから」  成田さんはまた泣き出しました。演技で流せる涙の量ではありませんでした。 「だから・・・・・・記憶を失っていることは、世間には伏せてほしい。分かって欲しい。君が記憶を失ってしまうと、俺も破滅なんだ。二人で築き上げてきたものが崩壊する。頼むから渡辺ではなく、嶋のままでいてくれ」  成田さんは土下座しそうな勢いで懇願してきました。マスコミはもちろんのこと、医者、看護士、家族、その他全てに黙秘を貫けと強要してきたのです。 「1年先までスケジュールは埋まっているんだ。君が芸能界からいなくなると大混乱だ。違約金も相当な額になる。映画の撮影もストップしたままだ」 「いきなりそんなこと言われても知りませんよ」私は成田さんを突き放しました。誰だってそうしたと思います。昨日まで高校生だったのに、目が覚めたら家族も恋人もいなくなり、俳優の仕事に戻れと言われて、「ハイ分かりました」と腹をくくれる奴がこの世に存在するのなら、とんでもない大馬鹿者です。
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