第2章

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 車は自宅に向かっていました。リオちゃんと結婚する二年前に建てた豪邸だそうです。どれくらい豪邸なのかというと、家の門の前に車がつけられても気づかなかったと言えば分かりやすいかもしれません。どこかの国の大使館前にいるとずっと思っていたのです。  成田さんがリモコンを操作すると、門は自動的に開きました。敷地内は近所の幼稚園児を集めて運動会ができそうな広さで、真ん中には富の象徴である噴水がありました。それをぐるりと半周して家の前に車が止められると、「着きましたよ」と成田さんは笑顔で振り向くのでした。 「家の中を案内してください」私は車を降りるとすぐに車内に戻り、成田さんに切願していました。妻のリオちゃんは映画の撮影で海外に行っているため、しばらく留守の状態です。耳かきの場所すら分からないのに、夫婦生活なんて始められるわけがありません。 「別にいいけど、俺は何回かしか入ったことないぞ」成田さんは面倒くさそうに言いました。 「それでもいいです。分かる範囲で案内してください」  こうして始まった家宅捜査はいきなり出足払いをくらうのでした。ドアを開ける暗証番号が分からないのです。自分の誕生日ではありませんでした。リオちゃんの誕生日と結婚記念日をウィキペディアで調べましたが一致しません。 「参ったね・・・・・・確か4回連続で間違えると不審者扱いされて、セキュリティ会社の人が飛んでくる仕様になっていたはずだ」成田さんは頭を抱えていました。  私が「もう1回だけ挑戦します」と豪語し、4桁の番号を打ち込もうとすると、 「おい、待て、待て! 今の話聞いてたのか? 次間違えたら警察官みたいな格好の男がやってくるぞ」成田さんは慌てて私の手を握りしめるのでした。 「一か八かやってみます」握られた手を強引に振りほどきました。 「失敗したらどう説明するんだよ。暗証番号忘れましたと伝えるのか? そういう些細なところから噂が広まってしまうんだよ」  忠告を無視して強行突破しました。すると解錠される音が心地よく響き、私たち胸を撫で下ろすのでした。 「何の番号を入れたんだ? 記憶が蘇ってきたのか?」 「樋口の誕生日です」そう答えると、成田さんの表情から笑顔は一瞬で消えてしまうのでした。
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