第2章

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「なんだか緊張してきました。仕事よりも緊張します」私は成田さんに心情を吐露しつつ、便意を感じて席を立ちました。体は正直なもので、子供の頃から緊張すると大便がしたくなるのでした。  他の客とすれ違いながら薄暗い廊下を進み、男子便所の個室に入りました。他の利用者がいなかったため、遠慮することなく放屁しながら便を出した瞬間でした。 「こんにちは、嶋さん」  ドアの向こう側で誰かが私を呼んだのです。座ったままの状態でファンにサインを書けるのなら楽でいいのですが、あいにくズボンが下がったままです。声を無視して残りを出そうとしましたが、奥に引っ込んでしまいました。 「嶋さんですよね」 「どちら様ですか?」私はお尻を拭きながら返事しました。 「声で分かりませんか?」 「申し訳ないのですが、分からないです」 「以前、あなたのスクープを買い取ってもらった記者ですよ。その節はお世話になりました。おかげさまで稼がせてもらいましたよ」 「・・・・・・何の用ですか?」 「水臭いですね。さっき廊下ですれ違ったのに、まるでこちらには気づかないふりをして、さすが俳優さんですよ」 「もっと金をよこせというのですか?」 「いえいえ、私にも一応プライドがありますから、そんなことは言いませんよ。ただひとつ気になることがあったので、訊いてみたかったのです」 「なんですか?」     
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