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「あなたが不倫をしていた男性が消息不明なんですよ。心当たりはありませんかね?」
「知りません。何ていう名前の人でしたっけ?」
「ははは、面白いですね。とぼけちゃって」
本気で名前を知りたかったのですが、その思いが伝わることはありませんでした。ズボンを上げ、水を流し、個室から飛び出しました。しかしそこには既に誰もいませんでした。
テーブルに戻ると、成田さんはピータンをかじりながら心配そうな顔で私を見つめていました。
不倫をスクープした記者にドア越しに話しかけられたことを教えると、成田さんは眉間にしわを寄せて、時間が止まってしまったかのように固まってしまい「そいつは、なんて言ってた?」と口の中で細切れになったピータンを公開しながら一言ポツリとつぶやくのでした。
私は今までに見たことのない成田さんの様子に若干の戸惑いを覚えながら、ありのままを話し、ようやく椅子に座るのでした。
成田さんは食欲が減退したのか、口の中のものを飲み込むのがやっとの様子で、その後はテーブルに広げられた料理に手を付けず、一点を見つめたまま黙りこくってしまいました。
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