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翌日の昼過ぎに、リオちゃんは帰宅しました。私は最終面接を待つ学生のように背筋を伸ばし、ソファに座っていました。
「ただいま?」
リオちゃんは荷物を玄関に置いたまま、両手を広げて、駆け足で接近してくるのでした。これはハグをしなければいけない、その後はキスでしょう、運が悪ければそのままベッドインです。やばい、やばい、と心の中でつぶやいていました。
リオちゃんは外国の匂いが染み込んだ上着を脱ぎ捨て、私の首に両手を回してきたのです。ウッと短い悲鳴を上げると、「ごめん! まだ痛かった?」と謝罪されてしまいました。
「いや平気平気」と言いつつ、私の下半身の一部は真冬の海に飛び込んだかのように萎縮してしまうのでした。
「病院に御見舞に行った時、あの人がいたから、ちゃんと話ができなかったもんね。あの人、ホント嫌い」
あの人とは成田さんのことでしょう。私は何度も頷いてしまいました。
「岳くんも、昔からあの人のこと嫌いだよね」
自分のことを本名の岳と呼んでくれる人に、退院してから初めて会いました。そこに微かな母性を感じると、張り詰めていたものが一気に融解されて、目元が熱くなり、涙がこぼれ落ちそうになるのでした。
初対面と言ってもいいくらいの関係性なのに、信じられないくらいに心が落ち着くのです。記憶はまだ戻らないのに、感覚だけが先に蘇ってきたかのようでした。
そして昨夜、自問自答した挙句に導き出した「自殺」というキーワードは、簡単に打ち砕かれてしまうのでした。こんな女性を残して自死を選ぶとは到底思えなかったのです。
しかしです。私の言葉に血が通うことは最後までありませんでした。作ったばかりの人工知能みたいに相手の言葉を記憶しつつ、そこから導き出された正答を口にしているだけなのですから。
怪我を理由に、その日の夜の営みは回避することができましたが、断る理由を使い果たした時の事を想像すると、胸が締め付けられるのでした。
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