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話を聞いた日の夜は、興奮して眠ることができませんでした。失ったはずの過去が、浮かび上がってきたのです。カフェインを原液で飲み干したかのように目の前がパッと明るくなりました。
もしかするとまた樋口に会えるかもしれないという淡い期待感が、私の冷めきった心をじんわりと温めているのでした。
ただし一条という名の男が行方不明になっているという事実だけが、小骨のように突き刺さっていました。お祝いムードに水を差してくるのです。それは異物感であり、しこりでした。
「まだ起きてたの?」
ドアを開けたままにしていた私の部屋に、リオちゃんが入ってきました。正確に言うなら、お腹の子供の方が先に部屋に入ってきています。
「眠れないの?」
リオちゃんは穏やかな表情でした。大きくなった腹が、私を現実に引き戻しました。一体自分は何を考えているのだ、身ごもっている妻がいながら、昔の恋人のことを思い浮かべて眠れなくなるなんて、そう思うと胸が苦しくなるのでした。
一つだけ言い訳するなら、お腹の子供は本当に私の子供なのか、というありふれた疑念です。どんなに男らしく振る舞ったところで、下半身の血流をコントロールできるとは思えませんでした。寝室は別々であり、退院してからまだ一度もセックスはしていません。
そしてあの笑みです。私が記憶を失っていることを知った時にリオちゃんが垣間見せた氷像のような笑みが、頭にこびり付いて離れないのでした。
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