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にわかに活気づいてきた私の郷愁も、長くは続きませんでした。一本の電話が切り裂いたんです。それは撮影所の控室にいる時に掛かってきました。
「・・・・・・俺だけど、今電話大丈夫か?」成田さんの声は震えていました。
「ちょうど休憩中でしたけど、なにか?」
「仕事が終わったら、ビルに来てほしい」
「別に構わないですけど、理由は教えてくれないんですか?」
「来た時に話すよ、大事な話だ」
私は胸騒ぎをおぼえていました。まるで人でも殺してしまったかのような声だったからです。撮影が終わると、タクシーでビルに直行しましたが、運転手の名前を携帯のメモの中に残していました。アリバイが欲しかったからです。何かの事件に巻き込まれても、これで証言してくれる人を確保することができます。
エレベーターで最上階に上がりました。ワンフロアすべてが社長室になっています。窓際にポツンと置かれた木製のデスクに腰を掛けて、窓外を眺めている成田さんの後ろ姿が、逆光によって黒く浮かび上がっていました。そしてすぐに気づきました。成田さんの足元に人が倒れているのです。
「来るのが遅いよ・・・・・・死後硬直が始まっている」
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