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私たちは山本の死体をスーツケースの中に押し込み、ビルの地下に駐車してあった車のトランクに乗せて、成田さんの運転で出発するのでした。
「どこに行くんですか?」窓の外の景色を眺めながら質問しました。
「うちの会社の保養所だ。税金対策で買ったんだよ。一条の死体もそこで溶かしたんだ」
「溶かした?」
「苛性ソーダでドロドロにして下水に流せば完全犯罪成立だ。あとはお前みたいに記憶を消してしまえば楽なんだけどね。運の良い奴だよな、お前は。人殺しのくせに罪悪感に悩まされる心配がないんだから。俺はお前に命令されて下痢みたいになった一条を便所に流してから、毎日どれだけ悩んできたか知らんだろ?」
私が主演した映画のポスターが貼られているシアターの前を走り抜けました。数日前に試写会が開かれ、挨拶をした場所です。車から入口までレッドカーペットが敷かれ、その上をタキシード姿で歩いたのです。数え切れないくらいのファンが集まり、手を振ってくれました。それが今はトランクの中に死体を乗せ、青ざめた顔で通り過ぎているのです。
「もう終わりにしませんか?」カーステレオから流れている辛気臭い環境音楽にも負けそうな声量で、私は言いました。
「やめるって、何を」
「全部ですよ。後ろにある死体を処分したら、別々に帰って、もう二度と会わないというのはどうです?」
「芸能界を引退するつもりか? 無理に決まってるだろ・・・・・・」
「それが嫌なら、今すぐ僕を車から下ろしてください。どっちがいいですか?」
「俺がヘマして逮捕されたら、お前も過去の殺人で逮捕されるんだぞ。今は一緒に解決すべきだろ」
「それなら過去の殺人事件の実行犯が僕である証拠を見せてくださいよ」
「証拠なんて残すわけないだろ」
「成田さん、あなたは僕が記憶喪失になったことを利用しているだけでしょ? 本当は一条を殺害したのもあなたでしょ? あなたの言うことは嘘ばかりだ」
私はヒートアップしてまくし立てました。成田さんは苦虫を潰したような顔になり、そのまま車を走らせました。
「辞めてもいいということですか?」という私の質問に成田さんは何も答えなくなっていました。
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