第3章

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 保養所は元々旅館だった建物をそのまま再利用しただけのものでした。源泉かけ流しの温泉があり、「風呂に入ってもいいよ」と勧められましたが断りました。山本の死体は食堂に隣接する厨房に運び、巨大な寸胴の中に入れて苛性ソーダで溶かす予定です。 「こいつは一条の時と違って体がでかいから、二回に分けようか」と成田さんは提案してきました。  二回に分けるというのは、体を切断することを意味します。道具は包丁しかありません。成田さんは牛刀を逆手で握りしめると、床に置かれた死体のヘソに突き刺しました。ためらう様子は一切ありません。  私は顔を背けて、薄汚れた山本の靴を見つめていました。ぐちゅぐちゅと内蔵を掻き回しているような音が響き渡っていました。  それはまるで死体損壊を楽しんでいるみたいでした。放っておけば腹の中に頭を突っ込み、マスターベーションしかねない雰囲気なのです。この男は確実に異常性欲者なのでしょう。 「どうしても俳優を辞めたいのか?」成田さんは死体を切断する手を休めて訊いてきました。     
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