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脅しなのは明白でした。恐怖による支配にスイッチしたのです。それはたった数分間の革命でした。社会における人間の立ち位置なんて、結局のところ幻想に過ぎないのかもしれません。血に染まったナイフをマイク代わりにして質問されても、返答の種類は限られています。
何も答えられず体を震わせている私に、成田さん提案を持ち掛けてきました。
「俺は全財産を投げうって、お前の顔を整形したんだ。それなのにお前は、いつの間にか自分の手柄みたいな顔をするようになった。俺は我慢したよ。成功するために必死だったんだ。挙句の果てに死体遺棄まで手伝った。そしてお前から返ってきた言葉が『引退したい』だ。笑わせんな・・・・・・どうしてもこの世界から身を引きたいなら、今まで稼いだ金を全部俺によこせ。元を辿れば俺の金なんだし。それが嫌なら、顔を返せ」
「顔を返す?」
「今から山本を苛性ソーダで溶かすけど、余った苛性ソーダを自分の顔に塗れ。それでチャラにしてやる。どっちがいい? 無一文の美男子と大金持ちのバケモノだ」
私は逃げ道を探していましたが、人里離れた場所にある保養所から走って逃げたとして、捕まるのは火を見るより明らかです。車の鍵は成田さんのポケットの中に入ったままなのです。
「逃げようと思ってるだろ? 無駄だよ。俺が捨て身でお前の過去の犯罪を警察に暴露してやるからさ。お前の顔を知らない人間なんて、この世にいないんだぜ? 日本で一番ポスターの貼られている指名手配犯になるよ」
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