第1章

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 入試はどうなってしまうのでしょう? 事故のせいで受験できずに浪人することになったとしたら、予備校の費用は加害者に負担してもらわないと割に合いません。  母親が駅まで見送ってくれたのです。お前なら合格できると励まされ、わずかばかりのお小遣いもくれました。母子家庭で育ち、お金を稼ぐ大変さは、母の指のあかぎれが言葉以上に伝えてくれました。落ちるわけにはいかないのです。 「今日は何日ですか」と男に訊ねると、「7月23日だ」とすぐに返ってきました。それが聞き間違いではないのなら、受験に間に合うかどうかを悩んでいる場合ではありません。予備校の入学すら眠って乗り過ごしているのですから。 「君は一週間近く眠っていたんだよ。最初のうちはマスコミが病院の外にウジャウジャいて大変だった。ヘリまで飛んでたし」  男はそう言うと、窓を開けました。生ぬるい風が、私の体を包み込みました。受験は寒い2月です。半年近く眠っていたことを皮膚が伝えてきましたが、男は一週間しか寝ていないというのです。それが事実なら、まだ第二志望の大学には間に合いますが、今日は7月23日だという。  訳が分からなかったです。そもそも1人の受験生が事故に遭っただけでマスコミが押し寄せ、さらにはヘリなんて飛ばすわけがありません。やはりイカれた男の戯言なのでしょう。
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