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第4章
刑務所から出てきた私を待っていたのは、聞いたことのない三流雑誌の女性記者だけでした。永野ユキと彼女は名乗りました。年齢は二十代前半だと思います。その色気のない洋服は、少し前まで囚人服を着ていた私に気を使っているのかと勘違いしてしまうほどでした。体は小さく、お世辞にも顔立ちが整っているとはいえません。
「おつとめ、ご苦労様です?」永野は笑いながらショートヘアの頭をペコリと下げました。
私は無視して歩き始めました。
「独占密着取材してもいいですか?」永野は幼い末っ子みたいに、跳ねるようにして後ろを付いてきました。
「好きにすれば?」私の素っ気ない対応に、永野は「ありがとうございます!」と自衛官ばりに声を張るのでした。
邪魔くさいというと嘘になるかもしれません。まだ自分をタレントとして扱ってくれている人がいることに、少しだけ安堵していたのです。そんな自分が心底嫌いでした。麻薬で捕まった人間が出所直後に麻薬を探し求めるように、私は芸能界をいきなり注射しようとしていたのです。
寂れた町をしばらく歩きました。通り過ぎる人たちの中に、私が嶋タケルであることを見抜く人はいませんでした。年齢が38になり少し老けたせいもありますが、それよりも整形のメンテナンスを怠ったのが原因だと思います。自然治癒力が人一倍強いのか、元の顔に近づいていたのです。かつての美貌は大部分消えていました。
「刑務所の中で、男に犯されたりしました? そういうのってよく聞くじゃないですか」
「刑務所に入る前から犯されてるよ」私の切り返しに、永野は「ひゃっひゃ」と笑い、小さなノートにメモを走らせるのでした。
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