第1章

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 成田さんはテレビの電源を入れて、お昼のワイドショーにチャンネルを合わせました。私が子供の頃から続いている長寿番組です。出演しているタレントのほとんどが知らない顔ぶれでした。司会者だけは馴染み深い元キャスターでしたが、小さな玉手箱を開けてしまったのか、少しだけ老けていました。  番組の序盤で「嶋タケルの事故」についての検証が始まりました。今さっき携帯で見た美男子が大写しになると、成田さんは「ほらね、これが君だよ」とつぶやくのでした。  映画の撮影中の事故が原因でした。カースタントです。走行中の車から、暴走したトラックに飛び乗るシーンで嶋は足を滑らせて地面に転落、頭を強くうち、意識を失って病院に運ばれたのでした。  成田さんはテレビを消すと「君は超が付くくらいの人気俳優なんだよ」と教えてくれました。  これは全て仕組まれたこと。そう思うと急に体がガタガタと震えてくるのでした。嶋という俳優が死亡し、その事実を世間から隠すために、容姿の似ている男を探し出し、記憶を消し、ソックリに整形したのではないかという陰謀論が浮上してきたのです。その白羽の矢が私に突き刺さったという可能性が出てきました。  先ほど電話で話をした「奥さん」は嶋の妻なのでしょう。こちらに向かっているそうですが、冷めきった夫婦関係ではないのなら、きっと私が偽物の夫であることを簡単に見抜くはずです。
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