第1章

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「とりあえず家族と連絡がとりたいのですが」と告げると成田さんは首を横に振るのでした。一体なんの権限があってこの人は家族と引き離そうとしているのでしょうか? 怒気を込めて再度伝えました。「母に電話がしたい」と。 「嶋くん、君はこの世界に入る時に、親の反対を押し切って大学を中退したんだよ」 「大学に受かったんですか?」私の声は少しだけ弾んでいました。 「ああ、受かってるよ。でも自主退学したんだ。お母さんは相当に怒ってたみたいだよ。しかし君が俳優になると、手のひらを返して応援してくれるようになったんだけどね。そして金の無心が始まったんだ。君は母親思いだったから、最初のうちは少額だったし、せっせと送金していたんだけど、次第に金額が大きくなってね、最終的に億の金を求められ、君は母親との縁を切ったんだ」 「嘘だ」とっさに口から短い言葉が漏れていました。 「残念ながら事実だ。今はもう君のお母さんは再婚して、新しい家庭を築いているよ。名字だって違う。電話しても気まずくなるだけかもよ。事故を起こす前の君は、母親を毛嫌いしていたんだから」  あまりにも残酷な言葉の暴力でした。駅まで見送ってくれた母の姿は昨日のことのように覚えています。実際に私の記憶の中では昨日の出来事でした。その母が絶縁状態になり、知らない男と再婚しているなんて信じられるわけがありません。
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