第1章

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12月の夜風が僕の薄くなってきた前髪をかき上げる。 冬の乾燥した空気は嫌いだ。頭皮がかさかさするから。 寒いと毛根が死ぬんだよ。 僕はコンビニの袋の中に入っているホットココアの缶をカイロ代わりにもった。 あたたかい。 かじかんでいた指先に熱がもどる。毛根もよみがえれ。無理。 早く帰って、こたつに入ろう。 今日は彼女を家にお迎えする日なんだ。 はじめて彼女が自分の部屋に遊びにきたときのことを思い出していた。 「へー、こういう部屋に住んでいるんだ-。あー、これ、ウチにもあるよ」 そう言って、彼女は棚にある『紅の豚』のブルーレイを手に取る後ろ姿をじーっと見ていた。 そのあとの会話もよく覚えている。 キウイが好きで、三個下の弟がいて、なかよしの女の子は美織ちゃんで……。 全部覚えているんだ。 何度も繰り返して再生したし、たぶん、今日も同じようなことを話すんだろう。 彼女はAIだから。 駅から7分。築20年の2階建てのマンション。僕の部屋は道路に面した201号室。 ドアを開け、散らかったせまい玄関で靴を脱ぎ捨てる。 これといった物はない部屋だ。 テーブルとベッドと最低限の電化製品。 そして、部屋のまんなかに先週届いたばかりのこたつがある。 本もマンガもゲームもぜんぶクラウドにあるから形あるものはほとんどない。 あるのはスパロボとポケモンのフィギュアぐらいだ。 スーツを脱いでよれよれのスウェットに着替えた。 バッグからハートマークのロゴがプリントされたUSBメモリーを取り出す。 仕事帰りに駅前の「i-CO(アイコ)ステーション」で買ってきた、今日発売のi-COタツのメモリーだ。 こたつのスイッチ横にある差し込み口にメモリーを差し込む。 ノートパソコンを立ち上げ、普段使っている僕のi-CO――香澄――と同期させる。 設定終了まで4分と表示され、僕はキッチンでインスタントコーヒーを入れた。少し濃いめに作ったコーヒーの香りが8畳間に広がる。 「コーヒー? わたしも入れてほしいな」 振り向くとこたつに入った香澄が僕を見上げていた。
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