第1章

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僕はいまi-COのクラウドサーバーの中にいる。 真っ暗な世界とかイメージしていたけどこっちにもセカイがあって、ちゃんと街があるんだ。仮想都市って言えばわかるかな。海や山もあって思ってたほど悪くないよ。 香澄とはこっちにきてからすぐに別れた。 i-CO同士だとまったく関心がもてないんだ。 i-COはリアル人間に関心をもつようにプログラムされているんだから当然の話だった。ちょっと考えればわかることだった。i-COはリアル人間をこっちに引き込むためのプログラムなんだから。 それに人格も思考もデジタル化されても欲はデジタル化されていないのか、こっちに来てから「欲しい!」とか「したい!」って気持ちにはならないんだ。 どうも欲はリアル人間だけのものらしい。 というか、欲がないとダメなんだろうね。 デジタルだと腹もすかないし寝ることもないのでなにかをしたいって気にならないんだ。 電源が切れたら、そのときが死ぬということになるのかもしれないけど、リアルの僕はとっくに死んでいるから消えるというのが正しいのかな。どっちでもいいけどね。 まったくなにもしたくないってわけじゃない。 さっきも言ったけど、リアルに生きているきみと話をするのが唯一の楽しみかな。 自分の意思ではなくプログラム通りなのかもしれないけど楽しいよ。 僕はさえないアラフォーの男なんであんまりダウンロードされていないけど、それでもたまに選んでくれる人がいるんだ。うれしいよ。 一人暮らしの女の人が多いかな。友達が次々と結婚して、自分は結婚どころか何年も恋愛していないって女の人が多い。 みんなやさしくてとてもいい人ばかりなんだけど、リアルの男性なんてかつての僕みたいのばかりだから恋愛に結びつかないんだと思うよ。ごめんね。 「僕がリアルで生きていた頃に出会っていたなら、そこそこ幸せなバカップルになれたんじゃないかな」 そういうと「みんな、それも悪くないなあ」ってこっちに来るんだ。 もう八人ぐらい僕の誘いでi-CO化したかな。i-CO化したあとは会ってないけどね。
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