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それは仄暗い
パッと、視界の端に光が入り込む。
先程まではその暗さに気づくことが出来なかったが、どうやらテレビ画面のようなものが張り付いていたようだ。
その画面からは光が溢れ、新たな情報を今にも提示しようとしている。
その画面を食い入るように見つめて、ただただ沈黙する。完全に停止していた脳が、今か今かとその時を待ち構えている。まるで、獲物を狙う獣の如く。
「ようこそ、黒い箱へ」
テレビのスピーカーは、そう告げた。ただそれだけを告げた。画面には何も表示されていない。白く鮮烈な光を放っている。
「きみたちは、選ばれた3人です」
「なんとかしてここから出ましょう」
いま、きみたちと。確かに3人と、そう言い放った。息を殺してきょろきょろと空間を見回す。光に照らされたはずの仄暗い空間には、自分以外には確かに誰もいないように見えた。金属製のそれを持つ手に力が入る。
フッとテレビ画面の色が反転する。
赤。
血のようとも、薔薇のようとも、またそれは炎のようにも赤く赤く光っている。
その弾けるような赤は、確かに網膜の奥へと焼き付いていた。
赤黒くなった空間には、やはり1人分の呼吸しか響いてはいないのであった。
*
ピリ、とした空気が場を支配する。五感は鋭く、背中を伝う汗がその緊張感をいちいち敏感に知らせてくれる。
ここまで聞けば、大方予想はつく。
真っ暗な閉鎖空間。手に持った凶器。選ばれた3人。
この空間で、この部屋で。デスゲームとやらを行なえと。そういう事なのだろう。
頭では納得しているものの、微かに凶器を握る手は震えていた。
じり、じりと時間が過ぎていく。そろそろ集中力も途切れるか、途切れないか、そんなところで。
ガタ、
─物音がした。
音の方向にさっと身構える。鼓動は早まり、血はどくどくと脈打つ。自分は興奮状態にあった。
目の前に黒い影が映った気がする。
大きく、そのひやりとした凶器を振りかざして、目の前の影に1発ぶち込んでやる。
と、それと同時に自身の体はばたり、と床に倒れ込んでしまう。
ほかの人は今何処に。薄れる意識の中、黒々とした視界の中を探し回るが、とうとう何も見つけることは叶わなかった。
テレビ画面は、壊れたように「きみたちは選ばれた3人です」と喋り続けていた。
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