第1雪 この白いの、なんですか?

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「寒い......」 ふと溢した吐息が、白く凍てつくのを認める。 まるで氷がはじけたようなソレに、私は指先でちょん、と触れる。 崩れ、霧散し、もはや掴むことすら出来ないソレに、私は、何を思っているのだろうか。 もはや感慨を抱けぬほど、私の心は淀んでいるというのに。 この肌を削ぐような痛みさえも、それが本当に私自身が今まで感じてきたものなのかさえも、とうの昔に忘れてしまった。 寒さなど、あの頃から既に感覚からも溶け落ちてしまっている。 ......はず。はずなのに。 何で、今日に限ってそんなものが蘇ってきたのだろう。 一時の気の迷いか、それとも私にもまだ『ヒト』の要素が残っているとでもいうのか。 「ハッ。 無様だなぁ」 まだ『ヒト』であろうとしていたのか、『ワタシ』は。 こんな醜く濁ってしまったヒトガタのバケモノにそんな権利、あるはずがないだろう。 この無駄に長い髪も、泥のような眼も、血の気が引いたような気味の悪い肌も。 『私』ではなく、『ワタシ』を固有に識別するための記号でしかなく、また、『私』から全てを奪っていった呪いでもあるのだから。 「気の迷い......いや、ついに狂ったか? ふふ。」 いやぁ、今日はすこぶる気分がいい。 一日に二回も笑えるなんて、まるで愉しいことの予兆みたいで、少女のようにときめいてしまうではないか。 「ああ、ああ、ああーー」 寒いというのも、なかなか良いものだな。 ーーねぇ? 「アナタ達も、そう思うでしょう?」 声の先には、誰もいない。何かはあった。あったのだ。自分がここに来るまでは。 まるで生命の神秘のように、命の輝きのように、きらきらとうざったらしく自己主張していた何かが。 今ではもう、ワタシの中にある。 儚く溶けてしまうような結晶も、ふわふわとした冷たさも。 もうここには何もない。 なくなってしまった。 だというのに。 「ーー寒い」 どうやら本当に狂ってしまっているらしい。 何もないのに、何かあるように感じてしまうなんて。 「ああ」 とっても。 気分がいい。
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