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まず目についたのは、青い洞窟だった。
寂れた林の中の、ポツンと開けた空間に。
子供一人がやっと入れるくらいの穴が、ごうごうと唸りをあげていた。
なぜ今まで気づけなかったのだろう。
この林には木材や木の実、少ない野性動物などで大変世話になったというのに。
まるで今まで存在してなかったかのような、そんな馬鹿げた感覚がふわりと上がってくる。
恐る恐る、咆哮をあげる口元に触れてみる。
冷やりとした触感。少し湿ってて、指触りがとてもーー。
ーーコナイデ。
「っ!」
反射的に手を引っ込める。
こえ? コエ? 声? なんで?
誰だ。誰かいる?
どこに? どこから聞こえた?
「......ここから?」
こないでーー、来ないでといったのか、この洞穴は。
まるで蛇が鳥の卵を飲み込むかのように、そんな錯覚さえ覚えてしまうそのような穴に。
俺は『来ないで』と言われたのか?
恐怖、違う。 焦燥? 違う。
本能、そう。本能、生存本能だ。これは。
本能が訴えかけてくる。
入るなと。踏み込んではいけないと。
しかしなぜだろう。 同時に訴えかけてくるものがある。
入れば死ぬという感覚と同時に、入らなければ未来はない、とでも言いたげな予感というか直感が渦巻いている。
ああ、さっきのヒヤリとした感じ。
もしかしたら、洞窟<<こっち>>じゃなくて、本能<<これ>>のほうかもしれないな。
「ーーふぅ」
と、深く息を吐く。
落ち着こう。 大丈夫。なんの変鉄もないただの穴じゃないか。
行ける。行ける。大丈夫。大丈夫。
なぜ入ることが前提なんだろうとか。
このまま帰ればいいじゃないかとか。
不思議なことに、そういう思考は一切無かった。
「よしっ......」
意を決した俺は、勇気ある第一歩を踏み込み!
まずはこの穴を広げようとクワを降り下ろした。
俺には狭すぎた。
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