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~プロローグ~
ゆっくりと落ちる夕陽が背中に掛かると、錆びかかった看板が、上から垂れた電球の力を借りて『古山古書店』と太く大きい字が浮かび上がり、存在感をやっと示すのだ。
それは、木造の建築で開き戸になっており、ガラガラと鳴き声を上げると、そこから「ありがとうございました。」と、若々しい声が聞こえてくる。
築は五十年といったところか、とても古い建物を敢えてリフォームもせず、古山は経営を続けている。
またガラガラと戸が開くと、ペタペタとサンダルの踵を擦りながらその男は出てきた。
口からは白い息を吐き出し、黒く縁取られた丸い眼鏡を上げて、くしゃくしゃの髪を風になびかせ、その細くて長い身体を思いきり伸ばすと、ポキポキっと身体から軋んだ音が小さく鳴った。
そこへ一人の大学生が近づいてきた。
「店長、お疲れ様です。」と、自転車を転がしながら古山に声を掛けた。
「あ、お疲れ様。大学終わるの早かったね。」
「三講しかありませんでしたから。それより店長、今日は両替行ってくれました?」
すると古山は、隣の建物を指した。
その方向には、『しのみや』と書かれた赤い提灯をぶら下げた居酒屋が一件、佇んでいた。
「またしのみやさんに両替をお願いしたんですか?もう、しのみやさんは銀行じゃないんですよ?」
「いいじゃない。助け合いだよ。」と笑って言いった。
もう、と、一つ溜息を吐いて自転車をその狭い道脇に停め、自転車の籠から鞄を取りだし、店内へと入って行った―――。
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