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 その星の生命体は人類が考えているほど愚かではなかった。太陽系の第三惑星からやってきた有人調査隊が、星に降り立った時に、彼らはちゃんと挨拶しようとした。しかし、人類は彼らの無声通話を理解出来なかった。彼らは困惑した。今までにも他の星から来た生命体と接触したことは多々あったが、意思の疎通がとれないのは初めてだった。  彼らは人類について学ぼうと決めた。具体的に言えば帰還する有人調査隊にこっそりついて行って、地球に向かった。人類は彼らに気づかなかった。あっけないほど簡単だった。  彼らはしばらくの間、ふわふわと大人しく地球を彷徨った。自然も感じたし、電車にも乗ったし、人混みにも揉まれてみた。しかし、彼らの声は誰にも届かなかった。返事をくれる人類はいなかった。彼らはしばしば自らが透明になってしまったような気がして、同胞たちで集まった。なぜ、人類は自分たちに気づかないのか。その答えを持っている者はいなかった。  もう星に帰りたいと嘆く声もあったが、もっと人類を知りたいという意見が過半数だった。彼らはより直接的に人類とコンタクトしようとした。地球に蠢く70億近い個体のどれか1つでも彼らの内側に取り込むことが出来れば、瞬く間に人類について理解できるはずだった。  強制的に捕食することも出来るが、それは彼らの理性が許さない。  B級ホラー映画の悪役みたいな扱いは困る、と地球に来てから映画に染まってしまった者が言った。さらに、まだ見ぬエイリアンバスターみたいな専門業者を呼ばれてしまうかも知れない! と同様にその手の娯楽に染まりきった者たちが声を上げた。
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