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「……ずっと、深雪って呼びたかった。白状する。ユキに深雪って呼んでみたことも有る」
「え?」
深雪が目を丸くして驚いた。
ーーそうそう、そんなこともあったわね。
彼の黒歴史ねーー
「ごめん……時効だから許して。で……」
「どうして?だから今、深雪って呼んでるの?」
溢れそうな眼で、深雪が確認するように窺う。
「待って。良いから、黙って聞いてて」
耳まで赤く染めながら、それでも達也は再び口を開いた。
「ユキの世話、また一緒にしてくれないか?毎日が大変なら週末だけでも良いからっ……だからその……」
ーー仕方が無い、私ももう少し長生きしなくちゃねーー
「俺と、付き合ってください」
月が雲に透けて朧に見える、冬の夜。
大粒の水気を含まない牡丹雪がこんことしきりに降り積もり、また一層雪景色を深くする。
辺りは既に積もっている雪に音を吸い込まれてしんと静まり返り、まるで雪の降り重なる音が聞こえそうな夜。
聞こえたのは……。
「……はい」
雪の降る音に掻き消されそうに頼りない、彼女の小さな声だった。
了
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