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それが達也にも伝わったのか。
「……深雪」
笑みを消して、彼女の名を呼ぶ。
「ん?」
それに答えたは良いが、彼の表情に移した視線をすぐさま伏せた。
「……なあに?」
「手、冷たくないか?」
「うん……大丈夫」
言って、後悔した。
冷たいと言ったならまたあの時のように……まさか、そんな事。
自分の浅い期待を悟られないようにと、深雪は一歩先を歩いた。
「……そうか」
その声色に幾分かのがっかりが混じっている。
「……あのさ」
それでも気を取り直してもう一度呼び掛けた。
「……何?」
「……あの、さ」
「うん?」
「……あの、何て言うか……その」
自分の知る彼らしくない歯切れの悪さに、深雪は愛しさを増した。
クスクスと笑いが混じる声に、達也も少しだけ緊張を緩ませる。
そして、深く深呼吸を一つ。
冷たい空気が肺一杯に入り体を浄化しているかのようだった。
意を決したように唇を開く。
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