死がふたりを分かつまで

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 「……覚えてる?」  あー、と俺は曖昧に返事をした。  覚えていないはずがない。  十年経った今でも時々思い出して自己嫌悪に襲われるくらいの失態だ。  それに、谷中を初めて意識したきっかけでもあった。  「あの時初めて、男子が……ガッチーが可愛いって思って目覚めちゃったんだよねえ」  後ろからぎゅうっと包み込むように抱き締められて、剥いていたみかんを取り落とす。  「可愛い……って。俺なんかより圧倒的に可愛いくせに、んなこと思ってたのか」  もお……!と後ろの身体が照れて抱き締める腕を強める。  可愛いだとか綺麗だとか、言われ馴れているだろうに何度言ってもこんな反応をするので、褒め 甲斐がある。  「これも、よくもつなあ」  男二人で満員の、あの時からそう変わらない見た目のこたつ。  「大事に使ってるからね」  夏は布団を取ってローテーブルとして、それから冬はこたつ布団を被せて。  あれから毎年、ぎゅうぎゅう押し合いながら一緒に入っている。  丁寧に白い筋を取った一房を、後ろで待ち構えている口に入れてやる。  するとお礼とばかりに耳にキスをされた。  くすぐったくて、ぶるっと震えると耳元で苦笑混じりに「ほら、可愛い」なんて言われてしまう。  あの時は、多少の不便さを感じていた小さなこたつだ。  でも今は、狭さに感謝してたりする。  二人で入るためと称して、こんな風にくっついて居られるし、真っ赤になった顔を布団に押し付けて隠せるのだから。  「あと何年もつかな」  こたつの天板に額を付けて、一人言のように呟いてみた。  谷中はすぐに応えた。  「10年使えたんだから、20年だってもつよ」  うん。俺もそんな気がする。  後ろを向くと、谷中が口角を上げて優しい瞳をしていた。  先のことなんてわからない。  でも、ずっと大切にしていきたいと思った。
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