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「谷中って、女になりたいって思ったことあるの?」
サークルの女子が谷中のことをよく可愛い、可愛いと言っている。
可愛い、可愛らしいというキーワードが頭に浮かび始めると、段々谷中がショートカットのボーイッシュな女の子にも見えてきて、失礼かもしれないと一瞬思ったが、疑問が口をついて出てしまった。
「え??考えたことなかったかも……」
そんな唐突な問いにも、谷中は嫌な顔1つせずに真面目に応えた。
うーん、と本当に初めて見聞きした問題に当たった風で、腕を組んでしばらく悩みだす。
やがて、うん、と頷いてこたつに肘をついてこちらを見た。
「もし好きになった人が異性でなかったら、そう思うこともあるかもしれない……かなぁ」
両手で頬を支えて、正直そうな眼が優しげに瞬く。
モデルを姉に持つ美形に見つめられて、思わず眼を逸らした。
異性でなかったら、ってことは、男をもし好きになったらってことで。
谷中は美形で可愛いし男からも好かれてるからなあ。
「あー。あれだ。最近、一般教養で受けたな、俺。LGBTの人を認めようとする運動が世界中で起こっているけれど、まだまだ認知されるには時間がかかるって」
「……うん。うちの親とかは、まだ理解あるほうかもしれないけど、おばあちゃん は、説明しても無理だろうなあって感じあるし、時間がかかるっていうのは解るな。僕が生きている間に、僕の家族にその考え方が定着するのは難しいと思う。海外に行っちゃえばいいかもしれないけど、相手にも家族の繋がりを切らせるようなことを求めたくないし……だから、そういうときは女の子になりたいって思うかもしれない。……なんてね」
「谷中、すげー真面目なのな。テキトーに興味本意で聞いてごめん。パンキョーの先生の講義かと思った」
ふふ、と谷中は微笑んだ。
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