あの夏

12/21
前へ
/21ページ
次へ
実家に4人で帰って少しだけ話をした。ちぃ兄ちゃんはやりかけの仕事があるので、明日は仕事に行かなければいけないと言った。あんちゃんは朝になったら休みの連絡を入れると言った。ちょうど母が入院したことを会社の人に話したところなので、事情はわかってくれているとのことだった。わたしも時間になったら上司に連絡をしよう。まあ、あと3時間もすれば完全に今日だ。外はもう明るい。遮るもののない田舎の朝は早い。 ちぃ兄ちゃんは自分の家に帰った。あんちゃんは広げた布団の上ですぐに寝た。疲れてたんだと思う。仕事から帰って、さあ寝ようかって時に車を飛ばしてここまで来てくれたもんね。途中、道に迷いながら。ありがとう。おかげでわたしも今、ここにいられる。 とりあえず寝ようという話になったのに、父はずっと起きていた。まるで小さな子どもを見ているようだった。今しなくてもいいことをガサガサごそごそ。何かしていないと落ち着かなかったのかもしれない。 でもさ、お父さん。あんちゃん寝てるからさ。起こさないように静かにしてようか。 そう思いながら、わたしもあんまり寝られなかった。朝方、少しウトウトしてきた頃、近所の人と父が話す声が聞こえてきた。母が亡くなったことを話しているようだった。 朝、あんちゃんが会社に電話をしているのを見て、自分も上司に連絡を入れた。電話だとうまくまとまらないと思ったので、メールで簡潔に送った。今日と明日、お休みをいただきます、と。上司からはグループに事情を説明してもいいかときかれたので、構わないと伝えた。何かできることはあるかと言われ、お通夜もお葬式もしないので、何もしなくていいと返した。 少し前、あまりにも日々の仕事が忙しすぎて、さすがのわたしも怒った。「このままじゃ親の死に目にもあえない」。まあ、結局あえなかったわけなんだけど。 とりあえず急ぎの仕事は昨日の午前中にやり終えたつもりだった。でも、こっちがそのつもりでも周りがそうとは限らない。中にはわたしにだけ相談してくる人もいる。家に帰ったら一度パソコンを立ち上げて、メールの自動応答を設定しておこう。急ぎの場合は上司に連絡してくださいって。 こんな時なのに、在宅勤務の便利さを一つ知った。会社に行かなくても仕事の整理ができるのは助かる。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加