あの夏

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次の日、火葬場に駆けつけてくれた人たちを見て、わたしは連絡してよかったとはっきり思えた。父方の祖母のお葬式や法事にも顔を見せてくれなかった人たちもいた。母にはこうして駆けつけてくれる人がいることが、ただただ嬉しかった。 1人ひとりに声をかけて感謝の気持ちを伝える。なかには久しぶりすぎて、「誰だっけ?」と思う人とも、話をしているうちに思い出した。 わたしの記憶の中ではずっと大人だった人たち。会わない間にわたしも大人になって、自分よりも大きく見えていた人たちと今は同じ目線にいる。 やはり母と血の繋がりがあるだけあって、みんなどこかしらに母の面影をもっていた。それとも無意識にわたしが探してしまうのだろうか。 母の姉と目が合った瞬間、「あ」と思うよりも先に涙が落ちた。マスクをしているせいで特に目が強調されて、その目が母にそっくりで、もう二度と視線が交わらないと思っていた母が、しっかりわたしを見上げているように感じられたのだ。 「すみません……」 そう謝るわたしを見つめ返す目にも涙が波うっていた。 そうしているうちに母の棺が運ばれてきた。そしてみんなで母の棺に花束を入れた。最後はあんちゃん、ちぃ兄ちゃん、わたしの3人で母の棺を囲んだ。 キレイな水色のシャツといつも使っていたヘアバンド、それから、わたしがたぶんずっとずっと小さい頃に描いた母の似顔絵。今よりもずっと下手くそな形で、「おかあさん、ありがとう」とかいてある。それを母はいつも使っていた化粧箱の底に入れていた。 わたしが持っていようかとも思ったけど、これはお母さんのものだから。だから、持っていって。手紙と一緒に。
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