あの夏

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母に癌がみつかった。かかりつけの病院でも告げられていたので、わかっていたことだった。大きな病院で検査を受けて、癌であることに間違いないと改めて告げられた。父と母と3人で医師の説明を受けた。 「手術しますか?お母さんはステージ3と4の間くらいなので、まだ手術をして取りのぞける可能性があります。実際には手術をしてみて、開いてみないとわかりませんが……。手術をしたとしても再発する可能性はゼロではありません。転移の可能性もあります」 母は今年79歳になる。だけど、実際にはそれ以上に見えた。痩せ細り、皮膚はいつのまにか赤いシミだらけ。すっかり小さくなった体は日々の暮らしもやっとだった。 「抗がん剤治療は合う、合わないがありますので、もし抗がん剤での治療をご希望の場合は入院して、様子を見ながら進めていくことになります」 抗がん剤治療にも複数あります、と医師が続けて説明をしてくれる。 抗がん剤、苦しいのかな。苦しいよね、きっと。今でも苦しそうにしているのに、これ以上苦しい思いをすることになるのか。そしてそれは母にとって意味があるのだろうか。 すると、母が言った。 「何もしなくていいです。このままポックリ死ねればそれでいいです」 79歳、それを聞いてもう79歳かと思うことが増えた。だけどそれと同じくらい、まだ79歳と思っていた。まだ早い。まだ、早い。
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