あの夏

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両親の暮らしが少しでも楽になればと母に渡していた生活費は化粧箱の中から見つかった。父に渡していた分はしっかり煙草代になった。 ちぃ兄ちゃんが渡していた生活費もちぃ兄ちゃん名義の通帳で見つかった。わたしの名前の通帳も見つかって、ちぃ兄ちゃんがそれはお年玉だと言った。自分もあんちゃんも家を出る時に受け取っていると。この歳でまさか、それも自分の親からお年玉がもらえるとは思っていなかった。 ちぃ兄ちゃんはそのお金はわたしのものだと言うけれど、今後のこともあるので、これは父に何かあった時のために使おうと思う。 母はこの家につくしてきた。そして、それが当たり前だった父がこれからは家に1人。だけど、父とわたしはそっくりだから、父は父なりに1人で生きていける気がする。 それでも、やっぱりそっくりだからこそ心配になることもある。たぶん、わたしと似たような失敗をするんだろうな。だから心配だ。 もう、夜に鳴る電話に怯えなくてもよくなったのに、時々夜が怖い日がある。母の夢を見るのだ。 それはきっとわたしの中に残る後悔で、自分の中で整理できない母のかけら。 だけど母はいつも優しい顔をしている。 Tおじさんに母の写真がほしいと言われて写真を探した。だけど、そのほとんどはわたしたち子どもの写真で、あんちゃんの数学100点のテスト用紙なんかもあった。 その中で母の写真を見つけた。それから父と母の結婚写真なんて初めて見た。あることさえ知らなかった。写真はこうやって未来へ思い出を残してくれるのだと改めて教えてもらった気がした。 そういえば、母の日記にわたしは人付き合いが上手じゃないと書いてあった。日付が書いてなかったからいつのことなのかわからなかったけど。もしかしたら小学生の時にイジメにあっていたことに気づいていたのかもしれない。面と向かって言ったことも、言われたこともなかったけど。 そういえば父が手術で入院した時、わたしが実家に帰った時のことも書いてあった。母は1人で心細かったらしく、わたしがいてくれて良かったと書いてあった。それならわたしも良かった。 日記に書いてあるほとんどは母にとってツライことばかりだったけど、その言葉を見つけることができて良かった。
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