あの夏

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◆ 月曜日、病院からまた呼び出されたと父から電話が入った。午前中で仕事をきりあげ、父と一緒に病院へ向かった。この日も母は起き上がれなかったので、会えずじまいだった。 この時、もしかしたら母は父と会いたくないのかもしれないと思った。そして母から見たら、わたしも○○家の人間で、会いたくなかったのかもしれない。それだけの理由が母にはある。 母は時々、「あんたも◯◯家の人間だね」とわたしに向かって言うことがあった。この◯◯家とは父方の人たちのことで、母は父方の人たちと折り合いがよくなかった。特に同居していた祖母、父の母親と。 子どもが産まれても文句を言われ、庭の草の抜き方さえ文句を言われ、心配すれば監視されていると言われ……ーー それが、母の日常だった。 看護師さんに転院の手続きを進めてもいいかときかれた。前の日に母と会ったちぃ兄ちゃんによると転院は無理じゃないかという話だったけど、病院はとにかく手続きだけでも進めたいという。わたしと父は、よろしくお願いしますと頭を下げて病院を後にした。 その日は悩んだ末、一人暮らしの部屋に帰ることにした。看護師さんから転院をすすめられ、母には転院できるだけの体力があると都合の良い解釈をしたせいもあった。母は大丈夫だと、まだ思い込んでいたのだ。 その夜、22時には布団に入ったものの何故か眠れなかった。体も頭も疲れているはずなのに、眠気がおとずれる気配がない。ひつじでも数えようか。スマホは余計に眠れなくなるから触らない方がいいんだろうな。 外の音がやけに聞こえる。静かだからか。洗濯でもしようかな。でも、夜に洗濯物を干すと運気が逃げるってきいたし。そんな他愛もないことを考えながら何度目かの寝返りをうった時、暗闇に光の柱が立った。着信。
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