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序章
その日、由良は残業で、マンションに帰宅したのは夜の十二時頃。
冬の夜。一人暮らしのため、家に着いても、待ってるのは冷たい空気。こんな時、いつも独り身であることを後悔する。結婚していたら、こんな風に帰宅が遅くても、きっと、温かいご飯が待っている。……そもそも働かないかもしれないけど。
はぁ、とため息をつくと、白い水蒸気。寒い。とにかくストーブをつけて、部屋を暖めなくては……。由良は急いでカーテンを閉めて、電気とストーブをつけた。
ストーブから出る暖かな空気に、少しずつ、冷気が拭われていく。一分くらいすると、体がじんわり。
ほっと息をついて、何気なく、テレビをつけた。夜のニュース。画面の中で、若い女性が事務的な口調で言った。
「今夜は全国的に冷え込み、東京都心でも雪が降るでしょう。──」
……雪。由良はそっと目を伏せる。雪には、いい思い出もあるけど、人生で一番の後悔もある。あの日以来、雪の日はどこか落ち着かない。きっと、まだ心のどこかで、期待しているから……。
由良は静かに、過去に思いを馳せた。
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